Vol.123:麺処まるはBEYOND


 2013年3月12日、深夜にラーメンが食べたくなって、当時、"すすきの"で大人気だった「麺処まるは健松丸」に立ち寄った。その時に挨拶させていただいたのが、今回取材する長谷川店主だ。当時、お店の店主だった御父様がお亡くなりになられたばかりで、息子である長谷川店主が跡を継いで厨房に立っていた時だった。悲しみ、不安、プレッシャー、いろんな感情が交差した大変な時期だったと思うが、なんとか御父様が残した名店を受け継いでいこうという強い意思が表情から伝わってきていたものだ。

 そして、その後の活躍が凄かった!激戦区「豊平区」に移転し、自分のやりたいラーメンを始めて一気に札幌ラーメンシーンのトップランナーとなる。2017年にはラーメンWalker北海道版で遂に総合GPを受賞した。

 今回、某百貨店の催事で奈良に来ると連絡をもらったので、取材をする時間を作っていただいた。出会ってからもう6年が経つが、どんな話が聞けるのか楽しみだ。"麺処まるはBEYOND"長谷川店主にKRK直撃インタビュー!


- 出身は?

「札幌です。」

 

- いつ頃から御父様はラーメン屋をしていたんですか?

「親父はホテルとかの料理長とかをしていて、僕が14歳の頃、ラーメン屋を始めたんです。親父はラーメンが好きで、それまでも東京とかいろいろ食べ歩きはしていたようです。」

 

- 自分でも将来、ラーメン屋をしようという気持ちは?

「当時は全く興味なかったです。何も考えていなかったですね。」

 

- ラーメンに興味を持ったきっかけは?

「大学を中退した時に、何をしようといろいろ考えていたんです。ちょうど親父が二号店の"まるは健松丸(すすきの)"をオープンする時期で、親父から『人が足りないから手伝ってくれ!』と頼まれたんです。その前にも大学の夏休みに京都の物産展で手伝ったりもしていて、『ラーメン作るの楽しいな~』と思っていたんですよ。アルバイトでも某店の調理場で働いていたので、飲食店への興味も出てきていました。それで、生きていくために『ラーメン屋もいいな~』と思い始めました。それから親父とラーメンを食べ歩くようになりました。」

 

- ラーメンに興味を持ってからは?

「本当にラーメンが楽しいなと思ってきたので、親父に『弟子入りじゃなくていいから、修業するのに親父のお薦めのお店を紹介してくれない?』と頼みました。その時に親父が『俺は癌なんだよ。』と僕に言ったんです。」

 

- それまで家族にも言ってなかったんですか?

「それまで全く知らなかったので、とにかく驚きました。実は"まるは健松丸"をオープンする前日に癌だと発覚したそうなんです。その後は、もう転移があり余命が2年以内だと伝えられていました。それで親父が『凌真、お前が入ってくれるなら俺も助かるよ。』と打ち明けてくれて、それで正式に親父のお店へ入りました。」


2013年撮影


- 正式に"まるは健松丸"に入ってからは?

「入ったからには熱中するタイプなので、ラーメンしか食べていなかったんじゃないかってほどいろんなお店を食べ歩きして、それをどう作っていくかとか勉強していました。」

 

- 当時の看板「超濃厚豚骨」以外も作っていたんですか?

「西岡の方に本店があったので、当時、西岡本店インスパイヤというラーメンを出したり、週替わり限定を1年間していました。今思うと、僕の勉強も兼ねて親父が機会を作ってくれていたのかもしれませんね。いろんなジャンルのラーメンを『これはあそこのインスパイヤ、これは燕三条系』とか、いろいろ作らせてくれていましたから。」


麺処まるはBEYOND(2013年12月15日オープン)


- 屋号変更し、移転した理由は?

「親父が亡くなった時点で、好きなことでラーメンを職業にしようと思いました。ドロドロの超濃厚を作ることは俺の人生でないと思ったので、自分のやりたいことを、やりたい場所でイチから見つけ出してやらないと他のラーメン店主さんと同じ土俵に立てないと考えました。」

 

- 激戦区「豊平区」を選んだ理由は?

「偶然ですね。地元から探し始めて、中央区寄りまで範囲を広げていった時にこの物件と出会いました。当時は今ほど激戦区って言われてない頃でした。」

 

- 屋号の由来は?

「BEYONDは超えるって意味。僕の名前が長谷川凌真で、凌が『凌ぐ、凌駕するの凌』なので超えていくという意味があります。親父がしていた『まるは』という屋号を、どうにかして時代に飲み込まれないようにするためには、親父がしていた時代を超えていかないと駄目だと思ったのでこの屋号に決めました。」


2014年撮影


- BEYONDで提供するラーメンは悩みましたか?

「健松丸で週替わり限定をしている頃から、自分の店でどういうレギュラーメニューでしようか考えて取り組んでいました。」

 

- 影響受けたお店とかありますか?

「やっぱりEIJIさん。かなり食べに行きましたね。初めのお店の頃も連日食べに行ったり、移転してからも行っていました。魚介豚骨醤油は自分でやろうとは思っていなかったので、いつも"あっさり醤油"を食べていました。食材の使い方、最後まで自分の出したいところまで出す、みたいなところとか勉強になりましたね。あとは凡の風さんにもよく食べに行っていました。」

 

- 清湯へのお客様の反応は?

「札幌ラーメン界の先輩方がかなり清湯、魚出汁を流通させてくれていたので、僕の時代は受け入れられやすかったですね。あとはラーメンファンの皆様がオープン時にかなり盛り上げてくれましたので、オープン日から多くのお客様に来ていただけました。

 それと親父の関係でオープン前からテレビが入ったんですよね。オープンした後もすぐに5本くらいテレビが入って、死して尚、僕を応援してくれている親父の存在を強く感じましたね。」


麺処まるはRISE(2017年5月26日オープン)


- 2号店を貝出汁メインにした理由は?

「健松丸を閉店してからBEYONDをオープンするまで準備で半年ほど空いたんです。その間の時間を使って東京へ食べ歩きに行ったんですよ。その時に不如帰さんの貝のラーメンを食べて衝撃を受けたんです。『あ~、貝でもラーメンを作れるんだ。視野に入ってなかったな~。』と思い、それからは『いつか二号店をできることになれば、貝で挑戦してみたいな!』と思っていたんです。」

 

- 屋号の由来は?

「親父の名前が長谷川朝也。朝より早い時間のことを暁なので、ウチの息子の名前を"暁"って名前に付けてアキって読ませているんですよ。屋号にウチの息子の名前をなんとか付けたくて、暁って時間は日が昇り始める時間。BEYONDみたいな意味合いなんですけど、朝也の朝より早い時間に登っていくよ、BEYONDよりもさらに向上していこうって気持ちを込めてRISEにしました。」

 

- RISEの商品の紹介をお願いします。

「貝出汁なんですけど、貝だけの出汁と、煮干しや鯵とかの魚出汁、それに動物系、3つを合わせたトリプルスープです。不如帰さんを知っているから、全く同じような感じで作ったら自分の可能性が無くなってしまうので、絶対に蛤は使わないで作ろうと思いました。だから今は浅利とムール貝、香味油に牡蠣を入れて作っています。北海道って本土の3年後くらいに火が付くので、このまま貝出汁をして、いつか貝出汁の先駆者として呼ばれるようになれば嬉しいですね。」

 

- 長谷川店主が大事にしていることは?

「僕の座右の銘が『全てのことは自分次第』。自分が何をしたかで自分の生きていく道が決まる。全部自分が決めることだから人のせいにはできないので、その気持ちでラーメンというものに向き合っています。僕がどれだけラーメンを愛せるかで、お客様にどれだけ美味しいものを出せるか直結して決まることだと思っています。だから、その気持ちを忘れずに、初心を忘れずにしていきたいと思っています。」



 <店舗情報>

■麺処まるはBEYOND

北海道札幌市豊平区中の島1条3-7-8

twitter:https://twitter.com/rma924

オープン日:2013年12月15日

 

■麺処まるはRISE

北海道札幌市南区澄川3条3-4-7

twitter:https://twitter.com/rma_rise

オープン日:2017年5月26日

 (取材・文・写真 KRK 平成31年4月13日)