Vol.72:麺物語つなぐ


 北加賀屋駅から徒歩で約10分ほど。住宅街を抜けていくと突然現れる商店街の入り口付近に新しいラーメン店が2017年3月にオープンした。屋号は「麺物語つなぐ」。店に入ると「あっ、久しぶりです!」と店主が私にすぐに気づいてくれた。私が寺岡店主と初めて会ったのは2016年冬だった。静岡のラーメン店主御一行が大阪へ来たので、急遽ミナミでの飲み会に参加することになった。その時、ある男性が「来年、大阪でラーメン屋をします。宜しくお願いします。」と挨拶をしてくれた。「無化調の昔ながらの中華そばでしたいんです!」と熱く語っていたその男性が寺岡店主だ。

 あれから約1年。某ラーメン本の新店部門 準GPを受賞したり、各メディアでも高評価される好スタートを切った今、寺岡店主にインタビューするタイミングは今だ!と思った。理想のスタートなのか、早過ぎるペースなのか、今の気持ちをしっかり聴いてみたい。"麺物語つなぐ"寺岡店主にKRK直撃インタビュー!


- 出身は?

大阪市住之江区中加賀屋です。この店から実家まで歩いて5分くらいです。ここで生まれ育って高校生までいました。」

 

- 飲食をするのに興味があったんですか?

「飲食は元々好きで、15歳頃には『高校に行かずに料理を作る仕事をしたいな』って気持ちがあったくらいです。その時は母親が『高校は出ておき!』って言ってたので、料理の道を断念して普通に高校へ行き、卒業後はそのまま大阪で就職しました。」

 

- どんな仕事をしていたんですか?

「20代の頃はがむしゃらにサラリーマンをやりつつ、30代になって接客業ですね。就職先がいろんな飲食店をしていたので、接客業をやりまして、その後、サラリーマンに戻ったんです。」

 

- その会社から離れることに?

「その頃、この地元から10数年間離れたんです。ふっと実家に戻った時、母親が実家で居酒屋を15年間くらいしていたんですけど、母親の姿を見た時に足をびっこひいてたんですね。それで『あ~、なんか老けたな。大変そうだな』と思ったんです。その時に母親が『あんた、ここで何かしたら?』と言ってくれたんです。今まで親孝行もしたことない、親不孝しかしたことない。じゃあ、母親と一緒に何かできればいいなって思ったんです。」

 

- 何が頭に浮かんだんですか?

「居酒屋じゃ、母親と一緒にやっていても親孝行ができないんじゃないかなって思いました。それで『ラーメン屋だったら』って。その時は軽い気持ちでした。イメージ的に儲けやすいんじゃないかって感じでしたね。ラーメンってジャンルだけなので、魚を捌くとか難しいこともあまり無いんじゃないかなって簡単な考えでした。」



- ラーメンをどこかで学ぶことに?

「その時に、仕事で行き来してた静岡県で7福神ってラーメン屋さんに食べに行ったんですね。『あ~大阪にないアットホームの店だな。家族や女性が多いな!』と思いました。ラーメンの味も好きな味だったので、『この味を大阪に持って帰って母親と一緒にやりたいな』って思いましたね。」

 

- 店に電話したんですか?

「まず手紙と履歴書を1日がかりで書きました。その手紙は今でも7福神の社長が持っていて頂いてるんです。その手紙を送付したんですが2週間経っても返事がなくて、『あ~駄目だったのかな』ってあきらめかけてた時に電話がかかってきて、『一度話を聞かせてください』ということでした。それで大阪から静岡へ行き、面接をして雇って頂けることになりました。」

 

- 静岡へ引っ越しですね。

「そうですね。もう来年のいつからって決まりまして、店の近くにアパートを借りました。自分の中では3年くらいで大阪へ戻れたらいいなって気持ちでしたね。向こうで認めてもらえてからって。なぜ行動できたかっていうと、それまでは1日1日が楽しければいいって過ごし方だったんですが、母親の親孝行がしたいという先の目標ができたんですね。それがあったんで意欲的になり行動ができたってのがあります。」



- ラーメン屋さんで初めて働いて、どうでしたか?

「大変でしたね~。最初は1日中、皿洗いって生活が続きました。『ラーメン屋って、こんなにお皿が出るんだ!』って驚きました。それから社長の姿を見ながら、少しずつ教えて頂きました。『社長はいつ寝てるんだろう?』とか思っていましたね。その時に、ラーメン屋さんの凄さっていうか、大変さを実感しました。」

 

- 浜松店で店長をしていたんですよね?

「本店で修行を始めて1年半後に、森町の本店から浜松の支店にサポートとして行ってくれないかって頼まれました。僕としても立ち上げとしての経験になりますので『ぜひお願いします!』と言いました。

 当初は浜松店で6ヶ月間のサポート、残り1年を本店で社長の下で修行をさせてもらおうって計画だったんですけど、浜松店の店長が急に辞めることになりまして、僕が店長になりました。店長をさせてもらって責任感、仕込みを自分でするって大変さ、そして期間限定を毎月やらせてもらって味の組み立て、素材の勉強をさせてもらったりとか、とても良い経験をさせて頂きました。いろいろ好き勝手にさせてもらって社長には感謝しています。」


麺物語つなぐ(2017年3月25日オープン)


- 修行時代に、自分の店で出すラーメンも決まっていたんですか?

「その時はまだ決まってなかったです。修行してた時に感じたのは、ラーメン屋はこんなに大変なんだなってこと。こんだけ大変なことをするなら、もっと自分の能力を伸ばす必要がある。教えてもらったレシピをそのまま作るだけでなく、自分のオリジナルラーメンを作ってやってみたいなって野心が出てきました。それで7福神を離れた後、大和製麺所のラーメン学校に行きました。スープもいろんなジャンルのを作り、タレの構成、盛り付けなど学び、充実した1週間でしたね。」

 

- 店の場所は?

「当初考えていた母親の実家でってのは、ラーメン屋で修行していた時にあきらめました。理由は店舗が狭かったからです。それで別の場所ですることに決めました。ここの商店街って昔は活気あったんですよね~。夕方とかには人と人がぶつかるくらい多くいて。でも今は近くにスーパーとかできて、どんどん商店街に人が少なくなってきています。ちょっとでも育った地元に貢献したいなって気持ちもあったので、この商店街のこの場所でって決めました。」

 

- 屋号の由来は?

「僕の今までの人生は"自分の力"ってのはこれっぽっちも無く、周りの人に助けられて、人と人の繋がりで前に進めて成長できたと思っています。だから、これからは人と人を繋いだり、僕と人が繋がって成長して頂いたりって気持ち、ラーメンと人を繋ぐってことで、『麺物語つなぐ』と決めました。」



- 寺岡さんの出したかったラーメン?

「いろいろ悩んだ後、無化調で頑張って、いろんな人を幅広く魅了したいなって思いました。ラーメンは完全に僕のオリジナルです。」

 

- 商品の紹介をお願いします。

「中華そばは一番悩み続けて、心が挫折しかけたほど取り組んだ一杯です。オープン当初の素材から比べるといろいろ変えていきました。最終的には丸鶏で肉の旨み、骨の旨味もあり、プラス手羽先を入れています。それで肉本来の味を引き出して、野菜を入れずに鶏オンリーで作っています。魚介のスープの方は節4種、昆布3種、煮干しで作っています。鶏と魚の割合もいろいろ試した結果、半々で合わせています。麺の方は全粒粉を入れています。小麦の味を感じつつ細麺で女性でも食べやすく、国産小麦でのびにくい小麦を使ってもらっています。」

 

- 生しらす丼って珍しいですよね。

「静岡で生しらす丼を初めて食べた時に『美味しいな~』って驚いて、これを大阪の人にも食べて欲しいなと思いました。それで駿河湾の港の方を紹介して頂いて仕入れをさせてもらっています。」


- この写真は本人なんですか?合成(笑)?

「静岡で修行してる時、大阪へ帰る前にこういう写真を撮りたいって思っていた写真なんです(笑)。何かに使えたらな~って。今、Facebookのアイコンに使っているんです。これを撮るの凄く恥ずかしかったんですよ~(笑)。メッチャ麓まで行かないとって。交通量が凄い多い場所なんですよ。それで車が通る度に隠れてたんですが、10分くらいしたら慣れてきましたね(笑)。4月頃です。『てっぺんを目指す!』って意味合いで撮らせて頂きました。」

- 寺岡さんにとっての'てっぺん'とは?

「ラーメン屋の求める味ってのはゴールは無いと思うんですよね。でも何かの賞、例えば何かの総合グランプリとか欲しいですね。それが一番上のテッペンじゃないとは思うんですけど、てっぺんの1つだと思います。」

  

- 現状はどんな感じですか?

「技術的には思い描いていないほどへこみですね。オープン前にここで試作した時には、自分の中で思い描いていたレシピでいけそうだって思ったんです。でもそこからどんどん右肩下がりとなっていきましたね。自分の思い描いていた味が右肩下がりになるってのを、自分が認めざるを得ない、結果発表どころか反省発表みたいな感じになったのが辛かったですね。それで心を悩まして、結局、寝ずに試行錯誤してオープンまで漕ぎ着けたんですね。でもラーメンは提供できるけど、『今の実力ではこのくらいです』って妥協の方が多かったんですね。それでオープン3日目に一度店を閉めてしまいました。そのまま静岡県に戻りまして、いろんな方に相談して心のメンテナンスとレシピの見直しなどしてきました。そして大阪へ戻ってまた3日間くらいスープ作りに専念して、再オープンさせて頂きました。」

- 寺岡店主の大事にしてること。

「まだまだこれからなんですが、イチに丁寧さ。お客様への接客。お客様が何をして欲しいのかってのを考えて、できる限りのことをしていきたいです。最近メディアにも紹介して頂いてるので遠方から来るお客様も増えてきているので、これからもっとSNSでの情報発信をしていきたいです。」



<店舗情報>

■麺物語 つなぐ

住所:大阪府大阪市住之江区中加賀屋2-1-15

facebook:コチラ

2017年3月25日オープン

 

(取材・文・写真 KRK 平成29年11月)