Vol.113:カネキッチン ヌードル


 2018年11月、ミシュランガイド東京のビブグルマン部門としてラーメン店も数店掲載された。今の東京を代表する名店が並ぶ中で、今回の取材店の名前も掲載されていた。屋号は"カネキッチン ヌードル"。

 聞いた話によると、埼玉の"ごはんや まーむ食堂"での間借営業を経て、東京・東長崎で独立開業したということだ。いろいろ謎が多いし、屋号の由来にも興味がある。"カネキッチン ヌードル"金田店主にKRK直撃インタビュー!


- 出身は?

「埼玉です。」

 

- 元々、ラーメンは好きだったんですか?

「10代の頃はラーメンが好きってわけでなく、ほとんど食べていませんでしたね。」

 

- 飲食の経験は?

「最初はお寿司屋さんですね。近所のお店の店主が親父と知り合いだったので、高校生の時にアルバイトで入っていました。それから友達がしていた和食系の居酒屋さんでも働いていました。当時はまだ飲食を将来しようとは全く考えていなくて、ただ単に仕事してお金を稼ぎたいってだけでしたね。」

 

- ラーメンはいつ登場するんですか?(笑)

「ラーメンはもっと先です~(笑)。寿司屋の次が、アニメーターになったんです。描く人です。名前も持っているんですよ。マクロス7の原画をやっていました。元々、学校で勉強していて絵が好きだったので『そっちでどうかな~』と思ってやったんですが、でも稼げないので無理だな~って思い、2年ほどでやめました。

 それから以前にバイトしていた寿司屋に就職しました。そこで30歳頃まで働いた後、次は"本田技研"に入り、車を作っていましたね。そして30歳後半くらいに某有名つけ麺店に入りました。」

 

- 展開がついていけない(笑)

「本田技研に通っていた時にラーメンをよく食べていたんですよ。それで本田技研をやめてから職安へ行くと、『近くに某有名つけ麺店の工場ができる』と聞いて、それでその店で働くことに決めました。」


- そのお店が有名店ってのは知っていたんですか?

「もちろん知っていました。ちょうど東京駅に出店する時期でスープをいっぱい作らないといけないので、工場を作って募集をしていたんです。」

 

- ラーメン業界は初めてでしたが、どうでしたか?

「厳しかったですね~。根性論なところも最初の頃はありましたしね。そのお店では6年ほどお世話になりました。」

 

- 最初から独立志望はあったんですか?

「全く無くて、就職って気持ちでした。ここでやっていこうと思っていましたね。でもだんだん所帯がデカくなってきて『会社』となってきたので、僕のやりたい方向と違ってきたんです。」

 

- 自分の店をしようと思ったきっかけは?

「ある時、そのお店と"せたが屋さん"がコラボをしたんですよ。それで(せたが屋さんの)醤油ラーメンを食べたんです。それまではつけ麺や魚介豚骨ばかり食べていたので、『今の醤油ラーメンってスゲー美味いな!』って衝撃を受けたんです。それで醤油に嵌ってしまって、それから蔦、鳴龍、くろ喜、その3軒に凄まじく通うようになりましたね。それで自分のお店をやってみたいと思うようになりました。」


- そして自分のお店ですね。

「最初、埼玉の友人のお店で間借り営業から始めたんですよ。最初の屋号は"ラーメン金田"だったかな?途中からカネキッチンに変えたんですよ。もう忘れちゃった(笑)。その間借り営業の時に、人気テレビ番組"有吉ジャポン"に出たんです。」

 

- 提供していたラーメンは?

「醤油ラーメンを提供していました。修業店と同じことをしたくなかったんですよ。成功しても『あのお店を出たからでしょ?』とか言われるのが嫌だったんです。自分の力で成し遂げないと、本当の意味で認められないですから。」


カネキッチン ヌードル(2016年12月12日オープン)


- 屋号の由来は?

「間借りの最初の屋号"ラーメン金田"でいいって思っていたんですけど、この場所を見に来た時に『ラーメン金田じゃないな。横文字だな』って思いました。それで自分のキャラクターがあるから、ちょっと砕けている感じがいいなって。ヌードルを付けた理由は、交流のある"蔦"の大西店主にも伝えましたが、蔦リスペクトです。」

 

- なぜ2階にある物件に決めたんですか?

間借りの時から2階だったんです。物件は10件くらい見たんですよ。駅前じゃなければ駐車場が無いといけないしって。八雲さんとかも2階だったし、美味しいものを提供できれば、お客様は来てくれる。最初だけ耐えられたらって思っていました。」

 

- お洒落な雰囲気のお店ですね。

「基本的にカフェやレストラン系のスタイルにして、ラーメン屋さんのスタイルは考えていません。コンセプトは『女性が一人で来れるお店』。空間が広く、天井も高い。座席間隔も広くとっています。

 最初はかなり批判されたんですよ。カウンターの壁が高くて、厨房が見えない。オープンキッチンにして厨房が見えた方がいいって言うんですけど、それはラーメン屋だけの話。イタリアンやフレンチで厨房の中なんて見えますか?僕は出てきた一杯が全てだと思っています。商品だけで判断して欲しいって気持ちがあります。」



- オープンしてから順調でしたか?

「商品については悩みましたね。ある程度は美味く作れるけど、でも自分が納得できるのを作れていなかった。どうやったら自分が納得できるものが作れるのかなって。自分の舌のレベルの方が先行していて、技術がついてこない、経験値が足らないって。」

 

- 東京で醤油で勝負ですからね。

「もうね、どこも美味いんですよ。だからここで突き抜けるってどうしたらいいんだろうって。ウチの開店時のラーメンってちょっと薄いというか、出汁っぽくてインパクトが無かった。今は東京仕様で最初からガツンと来る。東京って最初のインパクトが無いと、『後半に美味しくなっていくんだよね』って待ってくれないんです。一発目から旨味で攻めていかないと厳しい。ビジュアルは同じでいいんですが、『食べたら違うよ』ってところがないと駄目だなと思います。」



- 自店の醤油ラーメンの紹介をお願いします。

「素材をなるべく殺さないように意識しています。醤油は醤油の味がしっかり、色じゃなくて味として醤油の味がして、ラーメンとして成立しているバランスを突き詰めています。醤油と相まって油も良いのを使わないとちょっとレベル的に難しい。開店時はそんなに良い食材を使っていなかったけど、だんだん分かるようになってきてから、『これで引き出せる限界。香りはもうこの食材では無理だな』とかで、どんどん食材を入れ替えていったって感じですね。」

 

- 他店の醤油では見かけない、独特の麺を合わせているんですね。

「これも特注で作ってもらっています。全粒粉で形状がちょっと平打ちっぽくて長め。この麺を他の店で使っても駄目だと思う。スープが強くないと、この麺が勝ちまくる。麺が勝っていると思わせないバランスにスープや醤油を合わせないと、このバランスは実現できない。」

 

- チャーシューもどれもレベル高い!

「元々、肉ってどんなのかなって調べて、ラーメンに合う肉ってどんなのかなって考えました。そして他店ではやっていないのがないかなって。だから鶏チャーシューとかも他では食べれないと思うんですよ。あれで胸肉なんですけど、製法としては水を出さない。旨みをそのまま閉じ込めているからパサつかない。柔らかくしっとりしていて、ハムに近い感じになっています。豚もその素材の旨味をどうやって抜けさせないで作るって意識して、臭みを消して、柔らかい。噛むと油が出てくる。今後は、吊るし焼チャーシューやモモ肉も加えていき、丼も有田焼にしようと考えています。徐々にレベルアップしようと思っています。」


- 今後したいことは?

「海外をやりたいですね。ありがたいことにミシュランを獲れたので、名前的にも使えるので大きいです。今、知り合いがアメリカにいるので、アメリカが第一候補です。アメリカはまだまだ開発されていないところもいっぱいあるのでね。ただ、ウチと同じラーメンを出さないです。わかりやすい豚骨とかで勝負すると思います。」

 

- ラーメン屋として、金田店主が大事にしていることは?

「一杯一杯を大事に作ること。作りこむってこと。一杯をちゃんと作れないと100杯も作れない。それで気づくことがいっぱいある。毎日の変化を気づけるようになれないと駄目だと思うんです。だから僕は味も盛り付けもインスピレーションでどんどん変えていっています。去年と同じところはネギの切り方くらいで、ほぼ全て変えていますね。ゴールは無いですね。」



 <店舗情報>

■カネキッチン ヌードル

住所:東京都豊島区南長崎5-26-15 マチテラス南長崎 2F

twitter:https://twitter.com/freedam99999

 (取材・文・写真 KRK 平成30年12月30日)