Vol.197:麺酒 一照庵


 今回取材するのは岡山市の人気店「麺酒 一照庵」。「鶏を一匹丸ごと食べる」のコンセプト通り、鶏出汁を軸にしたラーメンだけでなく、鶏を使った魅力的な一品料理も幅広く揃えているお店だ。"麺酒 一照庵"大野店主にKRK直撃インタビュー!


- 出身は?

「岡山生まれ、岡山育ちです。」

 

- 飲食の世界に入るきっかけは?

「最初は高校3年生の頃にアルバイトとしてサンマルクさんに入りました。パン、パスタ、お寿司、いろんなことをしている岡山の会社で、本社が岡山にありました。高校を卒業して専門学校に入ってからもサンマルクでアルバイトをしていました。僕が入っていたのは中華料理のお店で、その時に『飲食って面白いな~』と思い始めました。情報系の学校だったんですが『ちょっと違うな』と思って、それでそのままサンマルクに就職しました。」

 

- サンマルクでの仕事の内容は?

「3年間ほど幅広くいろんなことをさせてもらいました。教育を主にする部署が出来て、関東を中心に新店の立ち上げをさせてもらっていました。只、僕もまだ若かったのでプライベートと仕事の折り合いがうまくつかなくて、いろいろ悩むようになってきました。もっとやれることがあったと思うんですけど、ただ僕自身の至らなさゆえです。」

 

- 悩んだのは仕事内容に?

「飲食をしていく上で『自分の居場所は本当にここなのか?』って感じでした。納得いかないことが続いて居場所が見つけられなくなって。その頃に『自分のお店がしたいな』と以前に思っていたことを思い出しました。」

 

- 自分の店とは?

「漠然としてですが、自分の飲食店をしたいと考えていました。一風堂の河原会長の教えに『天職ってのが俺に降りてきたのがこのタイミングだったんだ!』という話を聞いたことがあったんです。僕の場合、サンマルクに入った頃に『飲食が俺の天職だな!』と思った瞬間があったんです。」

 

- それで次に進むんですね。

「サンマルクを退社後、ホテルのサービス、蟹料理屋さんなどいろいろ経験を積んでいましたが、しばらくするとサンマルクで働いていた時との気持ちの落差というか、"落差"であり"楽さ"というか。とにかくこのままだと燃焼できていないって感じました。それで『飲食店に携わっていた頃の熱い気持ちを取り戻したい!』と思って、博多一風堂の岡山店に入りました。ラーメン屋さん=熱いってイメージだったんです。」

 

- ここでやっとラーメンが登場するんですね。

「当時の僕は博多一風堂のことを全然知らなかったんですよ。事前に食べに行ったら活気があって凄い声掛けがあったりで、『あ~、ここは面白そうだな。失っていたものを取り戻せそう!』と思いました。それから一風堂では5年間ほどアルバイトとしてお世話になりました。新店の立ち上げも3店舗くらい関わらせてもらったし、フロアーから厨房内の仕事、いろんな経験を積ませていただきました。一風堂はラーメン屋としてのマインドもそうですが、どういう人間でいることが大切かを凄く大事にしている職場でしたね。」

 

- 社員にならなかった理由は?

「自分のお店がしたかったということと、拘束されたくないって気持ちがありました。当時、日本一周をしたいという夢があって、社員になると異動もあるし長期休暇は難しいと思っていました。」


- 自分の店をラーメン屋と絞ったきっかけは?

「一風堂時代はまだ決められてなくて、何か自分のお店をやりたいと漠然と思っていただけでした。日本一周から帰ってきて自分は何をしたいのかと自問自答をした時に、自然にラーメンというマインドになっていたんです。」

 

- 「自然に」とは?

「自分のお店を作ろうとなった時、自分の手に馴染んだものが自信に繋がるので、ラーメンというものがスッと自然に出てきました。岡山に根差す、岡山に愛されるお店をしたいという気持ちがありました。」

 

- どんなラーメンでするかもその頃に?

「博多ラーメンというカテゴリーがあるじゃないですか。それが凄く羨ましかったんです。九州から出てきた人が『懐かしい!これこれ!』って言うんです。『そういうラーメン、岡山だとなんだろう?』って当時はスッって出てこなかったんです。そこで掘り下げていったんですが、岡山は『富士屋』の豚骨醤油が台頭して、途中から『天神そば』の鶏ガラ醤油が来て、この二本の醤油が岡山ラーメンの大きな潮流だという印象を感じました。

 よく言われるんですが僕の修業先は一風堂なんですけど、ウチのラーメンは全く違うものなんですよね。天神そばは天神参りって言われるほど愛されているお店。それで単純に天神そばのようなお店を作りたいという気持ちがあって、鶏を選びました。鶏の出汁が僕の舌に合ったんです。これで愛されたいって思いました。」

 

- 鶏のラーメンは独学ですか?

「ラーメンの教本を買ったりして、ノートに全部書き記しながら自作を2年間ほどしていました。」


麺酒 一照庵(2018年4月12日オープン)


- 屋号の由来は?

 「一風堂の河原会長の大切にする五十訓をまとめた本があるんですけど、その中に仏教用語で『一隅を照らす人になろう』という教えがあるんです。それに感銘を受け一照庵と決めました。」

 

- 「麺酒」を付けたのは?

「元々飲食店をしたいって考えていた時、居酒屋みたいなのもしたかったんです。一風堂にもラーメン居酒屋って感じの『博多五行』という業態があります。日本の文化として日本酒もいろいろ扱いたいなって思ったので、屋号に『麺酒』を付けました。『ラーメン屋なのにこんなにあるんだ!』って驚かれるほど日本酒を揃えています。」 


◆メニュー(2020年10月22日撮影)


- オープン時の商品は?

「最初は2種類だけ。鶏の塩と醤油でスタートしました。生醤油(鶏中華そば 生醤油)を一番したかったんですよ。天神そばを現代風にしたらどうなるかと考えて、行き着いたのが生醤油なんです。和風出汁を入れて、ネギじゃなく三つ葉。」

 

- 今回、私がいただいたクラムはいつから?

「最初は醤油と塩を進化させていこうと取り組んでいたんですが、1年ほど経ってから新しいものも加えていこうという気持ちになりました。ちょうど大阪に行くことがあって、人類みな麺類さんに初めて行きました。その時に食べた貝の出汁のに衝撃を受けまして、貝のを作りたいと思いました。」

 

- 岡山にはまだ貝系は無かった頃ですね。

「岡山で貝出汁のラーメンをするとしたら『どんな味がいいんだろう?』と考え始めました。岡山って濃い口が好きな方が多いので、塩分ってより旨味、濃厚なのがいいのでしっかり貝出汁を出しつつ、油にホタテ貝の香りを移してとか。いろんなお店で食べて参考にしつつ、今のクラムが完成しました。」


◆鶏中華そば クラム


- 商品開発は一人で?

「僕1人で判断せず、ウチのスタッフとかに食べてもらって意見を聞きます。ラーメンって平面じゃないので、高さとか彩も意識して料理のイメージを強くしています。三つ葉をウチのトレードマークとして効果的に使っています。」

 

- 大野店主が大事にしていることは?

「ウチに関わってくれる人を幸せにしたい。従業員、関連業者さん、お客様。ラーメン業界は未だにブラックなイメージがあります。僕は岡山で一番ホワイトな飲食店を作りたい。月に7~8日休みがある。有休もとれる。ボーナスもある。そういうお店をしたい。そのために事業拡大もしていかないとって考えています。お客様が必要としているものをしっかり見定めて、人が宝なので無理をしない事業拡大をじっくりしていきたいと思っています。」


◆店舗情報

麺酒 一照庵

岡山県岡山市北区中山下2-1-21

公式HP:https://www.mensake-issyoan.com/

instagram:https://www.instagram.com/issyoan/

オープン日:2018年4月12日

 (取材・文・写真 KRK 令和2年10月22日)