Vol.295:Ramen FeeL


 今回取材をするのは、東京都青梅市にある人気店Ramen FeeL」。店主は名店「飯田商店」の一番弟子ということだから、東京の最西端、この自然豊かな地域が2021年のオープン時には大騒ぎだっただろうと容易に想像がつく。甲府から奥多摩を越えて、青梅市まで取材させてもらいにやって来た。「Ramen FeeL」渡邊店主にKRK直撃インタビュー!


- ご出身は?

「埼玉県の入間市です。青梅市の隣ですね。」

 

- 元々、ラーメンは好きだったんですか?

「子供の時は家で母親が作る袋ラーメンが好きでした。小学校四年生の誕生日に母親から『誕生日、何を食べたい?』と聞かれた時に、ぼくは『ラ王の3種類を同時に食べたい!』と答えていましたから(笑)。それが当時の僕の僕の願いだったんです。その頃はカップ麺もメチャクチャ好きでしたね。」

 

- 当時の夢は?

「ずっとスポーツをしていて、小学校6年間はサッカー、中学校3年間はバスケットボールをしていました。海外への憧れがずっとあって、サッカーだとヨーロッパ、バスケだとアメリカというイメージがあって、バスケットボールでアメリカにいつか行きたいと思っていました。当時はNBAのサンアントニオスパーズの大ファンでした。

 

 そして中学ではバスケットボールをしながら、音楽もしていました。アメリカでいうマーチングバンドみたいな感じのドラムをしていて、ある時、世話になっていた人からマーチングバンドの指導者みたいなをしてくれないかと話がありました。」

 

- ドラムの指導者?

「楽しかったので音楽を続けている内に、日本人もドラムでアメリカへ行っている人がいると聞き、ドラムだったらアメリカへ行けるかもと考え始めました。それで高校3年間は独学で本を見ながら練習をして、高校卒業の頃にオーディションで合格して某チームに入り、高校卒業してからアメリカへ行って3ヶ月間くらいのツアーで演奏していました。」


- その頃もラーメンは食べていたんですか?

「音楽をしながらもラーメン食べ歩きはずっとしていました。週一回ほどですが、ドラムの練習でどこかへ行くとなれば、その近くのラーメン屋を調べて食べていました。当時はラーメンを作る気は全く無かったんですよ。高校の時に飲食店でアルバイトをしていたんですが、煩いし急かされるので飲食の仕事が一番嫌いと思っていましたから(笑)」

 

- 憧れのアメリカ行きが実現して、どうでしたか?

「ドラムのツアーで日本とアメリカを行き来していて、5年の間に計3年間ほどはアメリカにいる生活でした。アメリカの生活はもちろん楽しかったんですが、一番恋しかったのが家族や友達じゃなくて、ラーメンだったんです。それがアメリカに住む上で一番のネックだったんです。」

 

- 日本から離れてみて、ラーメンがこんなにも好きと気づいたんですね。

「どうにかして最終的にアメリカに住みたいと思っていたので、それだったら日本人として出来ることを身に付けてからアメリカへ戻ってこようと思いました。それで日本へ戻ったらラーメン屋で働いてみようと決めました。」

 

- 日本に戻ってすぐに?

「ドラムの仕事をしながら、ラーメン屋さんでアルバイトを始めました。その時働いていたラーメン屋さんはアメリカにも店舗があって、もしかしたらすぐにアメリカへ行けるかもと思ったんです。」

 

- 初めてラーメン屋で働いてみて?

「ラーメンを美味しそうに食べているお客様を見ていると凄く幸せだったんです。その時に『こんなにもラーメンが好きだったんだ!』と改めて気づきました。」

 

- 更にラーメンにハマっていくんですね。

「僕の中でもっとラーメンを知りたいという気持ちが芽生えてきて、そのラーメン屋さんを辞めさせてもらい、西荻窪の麺尊 RAGEさんで働かせてもらうことにしました。」

 

- 最初のお店とはまた違う系統のお店ですね。

「麺尊 RAGEさんがちょうどオープン一年目の時で凄い勢いもあったし、雰囲気もアメリカのような感じで好きだったんです。そこで廣田店主から色々教わりました。」

 

- どんどんラーメンにのめり込んでいくんですね。

「麺尊 RAGEさんで働き始めて5ヶ月目くらいの時に、飯田商店さんが大つけ麺博に出られると知ったんです。その時が初めての参加だったんですが、予想以上の反響があって人手が足りないとなり、飯田さんが店SNSでヘルプ募集をしたんです。」

 

- 凄いお客さんの数だったんでしょうね。

「ちょうど翌日が休みだったのでこれは行くしかないと思いすぐにメールをしたら、飯田さんから電話がかかってきまして。『勉強させてもらっていいですか?』とお伝えして決まりました。」

 

- 凄い急展開ですね。

「大つけ麺博の会場に行ってみたらヘルプの方がいっぱい来ていたんですが、皆さん、店主さん同士の繋がりからの従業員さんばかりで、twitterのヘルプ募集で来たのは僕だけだったんです(笑)。」

 

- ヘルプで入ってみて、どうでしたか?

「急に入ってきたよそ者ができることは限られているので、下仕事しかできることはありませんが、皿洗いとか何でもしてお手伝いしたいと思っていました。結局、四日間入らせてもらいました。洗い物をしていた時に印象的だったのが、僕が寸胴を洗おうとしていたら、飯田さんに『そんな洗い方をするんじゃない!そんな削るような洗い方したらスープの味が変わってしまうかもしれない!』と怒られたんです。それを言われた時、僕は本当に嬉しかったんですよね。四日間、色々可愛がってもらって楽しかったです。」

 

- 内容の濃い4日間を終えて?

「僕はその経験を持って麺尊 RAGEさんで頑張ろうと働いていたんですが、最終的に自分の店をやることが目的だったので、麺も自家製麺でしたし、退路を立つ意味でも飯田商店さんへ行こうと思いました。」


- 渡邊さんが思う究極のお店、飯田商店に入ってからは?

「とても厳しかったですが、それが僕の望んでいたところでした。僕は縦社会の仕組みとかもあまり知らなかったので、そういうところから学ばせてもらいました。4年と半年ほど修行させて頂きました。」

 

- 独立のタイミングは?

「ららぽーと沼津店へ出店したり、工場拡大してスープを作ったりとか、ちょうど飯田商店さんの転機の時期があって、その時に僕が管理を色々任せて頂いていたので『このまましていたらどうなるんだろう?』と思う時期がありました。」

 

- それは独立へ向けて動けなくなる不安?

「はい。飯田商店へ入門して4年経っていたので、飯田さんに『今後、僕はどうなっていきますか?』と身の程知らずではありますが思い切って聞いてみたんです。」

 

- 飯田さんからの返事は?

「『もちろん一緒に会社をしていくのもいいんだけど、自分でお店をする夢を持っているのを分かっている。それだったらいつまで修行をするか自分で決めろ』と言って下さいました。それで飯田商店10周年の3月16日が終わってから、3月末で卒業させて下さいとお伝えしました。」

 

- 卒業の時期が決まってからは?

「そこから半年間で製麺もしっかり教えてもらい、スープの今まで教わっていなかった部分、最後の仕上げの部分も親方にご指導頂きました。」


2021年2月28日オープン


- 青梅市を選んだのは?

「アメリカから帰ってきた頃には、実家が青梅市へ引っ越していたんです。アメリカの田舎の方に住んでいたので、こういう自然豊かな所が好きなんです。」

 

- 屋号「Ramen FeeL」の由来は?

「最初に英語の横文字にすることは決めていました。そして妻のお父さんに絶対に名前を決めてもらおうと思っていたんです。お父さんは釣りをする人で、釣具とか自分で作るんです。ある日、お父さんの釣竿に"don't think feel"と書いていて、『これ、かっこいいですねー!』と僕が言っていたんです。それから30分後くらいにお父さんに『お店の名前、何かいい名前は無いですか?』と聞いたら、お父さんが『feelでどうだ?』と言ってくれたんです。feelの意味は分かっていたんですけど、もう一度、意味を調べてみたら、感じる・思う・想い、というのがあって、ラーメンに対して全部精通することだなと思いました。生産者さんの想いを僕が感じて、お客さんにラーメンとして感じて頂く。それでRamen FeeLにしました。」

 

- 飯田商店の一番弟子としてのプレッシャーは?

「飯田商店に入門した時に分かっていたことで、それも覚悟の上で入っていました。自分自身ではかけられない負荷を、お客様の期待とか全部かけてもらう方がやりがいがあると考えていました。プレッシャーを感じる隙もないほど慌ただしく毎日を過ごさせてもらっていました。」



- 自店で提供する商品は悩みましたか?

「最初の3年間は王道のラーメンに一から向き合っていこうと取り組んできました。同じレシピで同じものを作るのではなく、自分なりに試行錯誤しながら作っています。」

 

- 王道の後、次はまだ見えていない?

「既存のものでも無い、僕の中で作りたいラーメンがまだはっきり見えていない部分もあります。只、ラーメンというモノを輝かせたいという想いが一番強いです。ノスタルジックなラーメン、大勝軒とか凄く好きなんですけど、僕はまだ見たことないラーメンの輝きを探っていきたいと思っています。だからラーメン屋さんではやらないことを、なるべくしていきたいと考えています。」

 

- ますますラーメンにのめり込んでいっているんですね。

「ラーメンって構成自体が完璧過ぎて美味し過ぎると思っています。でもラーメンのポテンシャルを考えたら、まだまだ幅が狭いんじゃないかと思っているんです。構成がメチャクチャ美味しい中で、もっと幅を広げて、もっと美味しくするためにはどうしたらいいかを深く追求していきたいと思っています。」

 

- 最後に、渡邊店主の一番大事にしていることを教えて下さい。

「ラーメンである以前に僕らは飲食業で、美味しいものを作ってお客様に喜んでいただくってことが一番大事だと思っています。お客様が喜ぶものをちゃんと作っているかが一番大事。そこの精神が飯田商店での修行でも、自分の中でも一番大事なこととして残しておきたいものだと思っています。」


◆店舗情報

Ramen FeeL

東京都青梅市梅郷4-695-1

twitter:https://twitter.com/RamenFeel

instagram:https://www.instagram.com/ramen_feel/

オープン日:2021年2月28日

 (取材・文・写真 KRK 令和5年6月29日)