Vol.66:がふうあん


 関西の玄関口である大阪国際空港(伊丹空港)のお膝元、兵庫県伊丹市。私自身、あまり行く機会が無いエリアだったが、このラーメン屋の存在を知ってからは定期的に通うようになっている。屋号は「がふうあん」。兵庫県屈指の人気ラーメン店となった「がふうあん」がオープンしたのが2009年8月。

 私がこの店へ初めて行ったのが2014年になってからだから、かなり遅かった!突然に人気に火が付いたって印象が強い店なんだが、実際はどうなんだろう?ほとんど何の情報も持ってない店なので、店主と話をするのがとても楽しみだ。「がふうあん」早川店主にKRK直撃インタビュー! 


- 出身は?

「伊丹市です。」

 

- 料理に興味を持ったのは?

「昔、BARを経営していまして、ドリンク中心で料理は知識が無かったので苦手だったんです。だから乾きもんみたいなのばかり出していたんですが、お客さんが『それじゃ足りない』ってことで、何か腹に溜まるものをって思いました。料理って大きな部分で勉強したら無理って思いまして、パスタだけ、トマトソースのパスタ1本だけ勉強しようって思いました。もうそればっかり勉強して、一本集中でしたらなんとか形になりました。それで1つ完成したら次にいこうかって感じでしたね。一個ずつ食べ物に関して勉強していって、最終的に何品かできるようになっていました。それが料理に入ったきっかけですね。誰かに教えてもらったってのは無く、自分でいろんな所へ食べに行ってそれにいかに近づけるかって勉強していきました。。」

- 当時、ラーメンは好きだったんですか?

「ある程度好きだったんですが、凄い拘ったラーメンを食べたいって感じではなかったですね。その時はどこでもよかったというか、汁ものが欲しいって感じでした。当時、伊丹にラーメン屋さんってとても少なくて、飲み屋で働いてるとお客さんたちが『どこかにラーメン屋は無いの?』ってよく聞かれていたんです。僕自身も仕事終わった後にラーメン食べたかったので、『もう自分でやっちゃおうかな?』ってそんな気持ちがありました。」

 

- それでラーメンの勉強を始めたんですね。

「当時、近所にあった『芦屋らーめん庵 伊丹店』のマスターがBARのお客さんとしてよく飲みにきてくれていたんですよ。それでマスターが『日曜に人足りないんだけど、誰か紹介してよ』って頼んできたので、僕が『昼なら僕は空いてるので手伝いに行きましょうか?』って言いました。それでラーメンの業界に初めて入ることになりました。2008年頃ですね。1年ほどお手伝いしました。作るのも手伝っていました。」

 

- 自分のラーメン屋をするきっかけは?

「『自分でラーメン屋をできたらいいな~』って思いつつも、ラーメン屋って大変な世界だなってのも実際に見ていたので『厳しいかな』って気持ちもありましたね。この場所の近くでBARをしていたんですが、ある時、この店舗(今の場所)が空き店舗で貸し出し中になっていたんです。前からこの路面で何かしたかったのでちょっと電話したら安かったので、何しようとは決まっていなかったけどとりあえず借りたんです。それで芦屋らーめん庵のマスターに『小さい箱だから、たこ焼きでもしようかなって思ってるんですよ!』って言ったら、マスターが『いやいや、ラーメン屋をしろ!』って。僕がラーメン屋をするのに興味あるって分かってくれていたんでしょうね。でもその場所が芦屋らーめん庵のすぐ近くでしたから、僕は『師匠のすぐ近くでラーメン屋なんてできないわ』って思っていました。それでもマスターが『本当にやりたかったら、やっていいよ』って背中を押してくれたんです。それがきっかけでラーメン屋をするって決心しました。」


らーめん処 我風庵(2009年8月2日オープン)


- 屋号の由来は?

「当時は漢字で『我風庵』でした。我ってのは自分、風ってのは『自分の風を伊丹に吹かせたい』って意味。そういう風に名前を付けました。」

- 我風庵で提供していたラーメン?

「勉強のために、オープン前に九州に行って豚骨食べて、それから尾道ラーメン、関西全域、東京、喜多方、仙台まで行きました。北海道は遠くて行けなかったんですが(笑)、『とにかくいろんなラーメンを知りたい!』って思っていました。それでいろいろ食べ歩いて、一番衝撃だったのが六厘舎(東京)。当時、つけ麺ブームだったんですよね。六厘舎さんがまだ昔の場所で営業してる時でしたね。食べた時に『これ凄いな!これを伊丹に持って帰ったら、凄いな!』って思いました。その時は自分の知識が少ないから、食べ歩きで自分がしたいのを見つけに行こうってことでしたが、それが六厘舎でした。それが始まりで、それを見様見真似でやってみました。オープン当初はつけ麺ブームってことでガーンって売れたんですが、ラーメンに対する勉強力がそれから成長できてなくて、3年くらい経った頃に店の売り上げが傾いてきたんですよ。」

 

- 傾いてきて、どう動いたんですか?

「その時、店舗展開で園田に出したりしてて、僕自身も調子に乗ってるところもありました。『人に任せて運営できたらいいな~』って気持ちもあって、やっぱりどんどん傾いてきて『あ~、このままだったらアカンわ~』って思いました。それで駄目な店舗は閉めてしまって、この店だけでしようって決心しました。」


がふうあん(リニューアルオープン)


- 再出発ですね。

「2012年頃です。調子に乗ってた漢字の名前から、『がふうあん』って平仮名の屋号に変えました。『柔らかいイメージのお店にしたいな』って思ったんです。全部レシピも作り直して、心機一転、麺も自家製麺にしました。『このままじゃアカンな』って気持ちがずっとあったので、とにかくラーメン屋として難しいことにトライしていかないとやっていけないって思いました。」

 

- リニューアルして新しいラーメンを開発することに?

「当時、僕は同業者に知り合いがいなかったので、facebookで繋がっていたラーメンに詳しい方に『リニューアルするので何かアドバイスをもらえませんか?』って頼んだんですよ。それでその方が『清湯がいいと思う』ってアドバイスをくれたんです。当時、このエリアは濃い豚骨ばっかりだったので、清湯がいいって。それで幾つかの清湯のおススメの店を紹介してもらい、食べにいきました。その中で一番影響受けたのが、而今さん(大阪)の塩。『こんな感じでいけたらいいな』って思いましたね。同じものはできないですが、ちょっとニュアンスを近づけたって感じで。」



- お客さんの反応は?

「逆に我風庵時代に出していたつけ麺好きだった人、豚骨系の濃い系が好きだった人が離れてしまって、最初はもっと店が傾いてしまいましたね。しばらく大変でしたが、来店してくれるお客さんにひたすら丁寧に良いものを出そうってやっていました。それで少しずつお客さんが増えてきて、ラヲタの人達も来てくれるようになって口コミでじわじわと拡がっていきました。それから今につながっていくって感じですね。」

 

- 今は同エリアの同業者との繋がりも増えてるように思うんですが?

「リニューアルして清湯になっただけでまだまだクオリティも低かったので、店終わったらラーメン食べ歩きをしていました。それで尼龍さん(尼崎市)って店にしょっちゅう行くようになって仲良くなって、その繋がりから『和海』木下店主とも知り合りました。その頃にはウチの店もちょっと名前が出てくるようになってきて。店主さん達と仲良くなったら、それなりにアドバイスももらえるようなって、どんどんラーメンが良くなっていったと思います。皆さんのアドバイスのお蔭でもあります。」


- 今の看板メニューへの拘りは?

「塩って言っても多くの美味しい店があります。その中でも美味しいのを作っていかないとあかんって気持ちでやってるんですが、他がクオリティが高過ぎてなかなか大変ですね。醤油の場合、スープの元々持ってる美味さが醤油に押されてしまう場合もあるんですが、塩ってのはスープの旨味の引き立て役。塩なので如何にスープを美味しく作るかを考えています。いろんなものを入れ過ぎて複雑になり過ぎるのも駄目かな~って思ったりして、今、自分の中で試行錯誤してる最中です。塩の美味しいって言われてるいろんな店に食べに行ったら、どこも美味いんですよね~。それまではスープが分厚ければ分厚いほど美味いんだって思ってたんですが、最近は分厚過ぎずにある程度抑えたところの旨味を求めて作りたいなって。例えばロックンビリーS1さんのようにサラリと美味しくて凄く満足するスープ感。そういうところを目指したいかなって思っています。」

- 人気限定の煮干し系は?

「勉強のためラーメン食べ歩きをしてる時に、東京の伊吹さんと出会いました。凄いラーメンだったので『伊吹さんみたいな煮干しを作りたいな!』って思ってたら、和海さんと伊吹さんが知り合いだったので、ある時、一緒に飲む機会を作ってもらいました。それがきっかけで仲良くさせてもらうことになって、煮干しに関してのアドバイスも少し頂きました。それで煮干しを限定でし始めました。人との出会いで引き出しが増えていったって感じですね。知識が増えて、進化もできてきたと思います。」

 

- 「ガラクタ酒場」について?

「僕が経営しています。そこに製麺機を置いてるので、作り立ての麺で油そばを出したりしています。メインの商品は三重県松阪市の有名なB級グルメ『鳥焼肉』がヒント。味噌ダレの鳥焼肉です。以前に食べた時にとても美味しかったので、これを伊丹でやりたいなって始めました。」


- 今後の展開?

「今、凄いラーメンがいっぱいあるじゃないですか?凄い新店もどんどん現れるし。一生懸命考えても、もう思い浮かばない状況なんです。それで原点に帰って、昔から美味しいって言われてるラーメン。僕はそういうラーメンに注目しています。現代風じゃなくて、ちょっと過去に帰ろうかなって思って今は勉強を始めているんです。昔の味で今の技術を足すって形、そういう形にもっていきたいって思っています。」

  

- 早川店主の大事にしてること?

「結局、笑顔なんですよね。僕たちが笑顔じゃないと、お客さんも笑顔になってくれない。そんなに上手にいつも笑顔になれないんですけど、自分の中では笑顔ってのを大事にしてお店をやっていきたいって思っています。笑顔さえあれば、その日ブレて美味しくない日があるかもしれないけど、『あの兄ちゃん、良い人だからまた行ってあげよう』って思ってくれる一つのカギになるかなって思っています。また来てくれた時に美味しいラーメンを出せたらって。笑顔ってのはこれからもずっと守っていきたいかなって思っています。」



<店舗情報>

■がふうあん

住所:兵庫県伊丹市西台2-1-11

twitter:https://twitter.com/gafooan

オープン日:2009年8月2日

(取材・文・写真 KRK 平成29年10月)