Vol.202:麺屋さすけ


 静岡県掛川市を初めて訪れたのは2017年5月。その前夜、静岡でのイベントについて中部新聞からの取材があり、集まった初対面ばかりの静岡のラーメン店主たちの中に「麺屋さすけ」佐々木店主も来ていた。取材後の飲み会で話していると、とにかく自信に満ち溢れていて、それが決して嫌味でなく心の奥底からラーメンへの熱い気持ちが伝わってきた。それで急遽、翌日に(帰路と反対方向の)掛川市まで寄ることになり、麺屋さすけのラーメンに嵌ってしまって今に至るというわけだ。

 あれから約3年半、静岡を代表する人気店となり、掛川市内に新たに本店をオープン。乗りに乗っている今、佐々木店主と久しぶりに話す機会を作っていただいた。あの頃のギラギラした眼はまだ健在なのか?"麺屋さすけ"佐々木店主にKRK直撃インタビュー!


- 出身は?

「静岡県掛川市です。」

 

- ラーメンは昔から好きだったんですか?

中学生の頃に地元の老舗で食べてからラーメンが好きになりました。若い時から音楽をしていてバンドで日本各地を廻っていたので、行く先々で『ここのお店が美味い!』とか情報をもらってラーメンを食べていました。リハーサル終わってからラーメンを食べて、それからライブをして泊まるという生活でした。ジャンルは問わず、いろんなラーメンが好きでした。音楽から離れて長距離トラックの仕事に転職してからも、仕事で全国を廻っては各地のラーメンを食べていましたね。」

 

- 仕事としてラーメンを考え始めたきっかけは?

「30歳になった頃にトラックはやめて、地元で居酒屋をしようかなと考えたんですが、自分がお酒を好きなので商売は無理だと思いました。その時にウチのカミさんに『あんたラーメン好きじゃん。ラーメン屋をやってみれば?』って言われたんです。」

 

- 奥様に言われるまではラーメン屋は頭に無かったんですか?

「全然考えていなかったですね。それでカミさんに言われてから『そうか!俺、ラーメン好きだな。じゃあやってみようかな!』と考え始めました。」


- 当時、料理の経験はあったんですか?

「高校時代に居酒屋でアルバイトしていて、卒業後に浜松市の調理の専門学校に行っていました。元々、中華が好きだったので中華を専攻して資格を取っていました。音楽をやっていたのも浜松で、調理の学校も浜松。その関係で当時は浜松で食べ歩くことが多かったですね。」

 

- ラーメン屋を開業することに決めてからは?

「調理の学校を出ていても、ラーメンについては右も左も分からない状態でした。何となく自分のやりたいラーメンは頭の中にあったんですが、家で自作をしていてもよく分からないので、とりあえず駅前の物件を借りました。」

 

- いきなり物件を?(笑)

「掛川駅の近くの狭い所でした。有名店で修業したわけでもないので、そんなに広い店じゃなくてもいいだろうって。それで何となくラーメン屋で使うだろうって思った調理器具や寸胴を買いましたね。」

 

- 頭の中にあった(作りたい)ラーメンとは?

「鶏と豚、野菜類、魚介も使ったスープ。濃厚過ぎず、あっさり過ぎない中華そばみたいなのを作ろうって頭の中にありました。一か月くらい試作をしてから営業を始めました。」


- 屋号「麺屋さすけ」の由来は?

「自分の名前、『ささき ゆうすけ』の一番頭と一番最後を取って『さすけ』。それでラーメン屋をするので麺屋でいいかなって。かっこつけた名前もいろいろ考えたんですが、どこかで修業したわけでも無いし、全責任が自分にあるから自分の名前でしたらいいかなって思いました。」

 

- オープン当初に提供していた商品は?

「ラーメンとつけ麺の2本でした。」

 

- 当時のお客様からの反応は?

「SNSとか全くしていなかったので反応が分からなかったですね。当時から"めん奏心"の鈴木さん(当サイト記事)がよく来てくれていて、『SNSくらいやれよ。twitterをやれば情報を広げられるよ!』と教えてくれました。それでtwitterをやってみると自分のラーメンがどういう評価されているかが分かってきましたね。その場所で一年ほどしていましたが、駐車場関連の問題とかあって移転することに決めました。」



- すぐに次の場所は見つかったんですか?

「前の場所(現在、麺屋さすけ支店として営業中)で高齢のおばあさんがラーメン屋をしていたんですが、そこを譲ってもらえることになりました。話し合いをして、もう翌日から改装工事を始めれることになりました。」

 

- 移転して商品も変わっていったんですか?

「最初のお店でラーメン屋を始めた頃は、ラーメンを作るより食べる方が好きだったんです。でも移転してちょっとずつレシピをいじったりしていて、お客さんがどんどん増えていく内にラーメンを作るのが面白くなってきました。」

 

- 当時のラーメンは?

「移転後、ちょっとずつ濃厚にしていき、一年くらいは濃厚系で営業していました。でも定休日に"めん奏心"や"粋蓮"(当サイト記事)に食べに行ってる内に、丸鶏を凄く好きになってきました。それでウチでも限定でしてみようって始めてからは完全に清湯にハマりましたね。"めん奏心"みたいな水鶏系(鶏と水だけのスープ)をしたくなり、最初は濁りある感じでしていて、それから自分流にクリアーな感じにしていきました。水鶏系はシンプルだから難しい。それが自分的にツボにはまって、どうやったら美味くなるかずっと考えるようになりました。」

 

- お店の商品もリニューアルすることに?

「移転して2年目の頃に、丸鶏のラーメンをメインでリニューアルしました。元々の濃厚系が好きだった常連さんもいたんですけど、水鶏系にしてからは新規のお客さんがとても増えてきました。」


- 醤油にもかなりハマっているようですね。

「醤油もキリがないですよね。粋蓮の大将と各地を醤油探しで廻っています。」

 

- ファンが多い煮干しを始めたきっかけは?

「煮干しも"めん奏心"鈴木さんの影響なんです。鈴木さんが『鶏をしているなら煮干しもやれよ!』って(笑)。当時、僕は煮干しがあまり好きでなかったんですが、鈴木さんが自分が使わないって煮干しを毎週2ケースくらいウチに運んでくるんですよ。『やれ、やれ!とにかく作れ!』って(笑)。」

 

- 作ってみてハマったんですか?

「最初は端麗系っぽいので『これなら自分でも食べれるかな?』って感じだったんですけど、作っていく内にだんだん濃くなっていくんですよね。最終的には鈴木さんに『お前、これは濃過ぎだよ』って(笑)。その頃には苦味やエグ味が自分には心地いいくらいになっていました。」


麺屋さすけ本店(2019年11月16日オープン)


- 本店を新たにオープンすることになったきっかけは?

「最初は縮小しようって話だったんです。前にいた従業員が辞めた時に、もう家族だけで朝から昼だけでしようって考えていたんですが、ウチで働きたいって人が集まってきたんですよ。それなら一日中営業しようってやっていたんですけど、前の店は狭かったんですよね。そのタイミングで業者さんからここのお話をもらったんです。

 その建設会社の社長さんがウチの前をよく通っていて、狭い所にお客さんが並んでいるのを見ていたそうなんです。『空いている土地があるから、自分のやりたいような図面を書いてくれたら建ててあげるからそこを借りてよ』って。それで製麺室をこうしてとか、スープを炊いた熱がお客さんにいかないように横にスープ室を完備してとか、いろいろ話し合ってこのお店ができました。」



- 本店の商品は?

「元々、鶏は地鶏を使っていて、自分が今一番気に入っているのが鹿児島の黒さつま鶏。それをメインに使って、他に徳島の阿波尾鶏も使っています。メニューで"丸鶏そば"とか謳っていないのは、昔は丸鶏だけだったんですが、今は鶏のいろんな部位を使いながら出汁をとるようにしています。そして地鶏しか使わなくなったので看板商品を"地鶏中華そば"と名付けました。」

 

- 更に鶏清湯を追求していくって感じですね。

「ここの部位をこう捌いたら美味くなったとか、ここの醤油をこれだけブレンドしたらとか、本当に細かい自分しか分からないようなことをずっとしているのが好きなんです。」

 

- サイフォン抽出式も面白いですね。

「ちょっと面白いこともやってみようと思って、サイフォンを始めました。東京や九州でサイフォン式をしているお店を知っていたので、『自分のお店でしたらどうなるんだろう?』って。」

 

- 他のメニューは?

「本店の煮干しは伊吹いりこで超淡麗って感じで、濃い煮干しは支店の方で提供という形にしています。」

 

- 本店のコンセプトは?

「本店は狭かった前の店ではできなかったことをしようと考えました。高級志向じゃないですけど、いい出汁、綺麗な出汁をとって旨味を追求していこうと思っています。」


- 本店になってから自家製麺を始めたきっかけは?

「本人が憶えているか分かりませんが、以前に"めん奏心"鈴木さんが『ラーメン屋とは麺を打ってこそラーメン屋だ!』とツイートしたことがあるんです。それを見た時に『やっぱりそこなんだな~」と思いました。自分的には自家製麺については忙しくなり過ぎるし、機械や場所の関係もあるのであまり考えないようにしていたんです。でもそのツイートを見てからは、『たしかに最終的にそこだよな。一番やらないといけないことなんだよな』と考えるようになりました。それで今回、本店の建物の話があったので、製麺室を作れるので自家製麺導入を決心しました。」

 

- 麺打ちも自己流で?

「自分で悩まないと成長しないんですよ。人から教わってやるのは楽じゃないですか?とりあえず自分でやってみるってのが自分のスタイルなんです。それでいつも失敗するんですよ。最近手打ちをしていて、それも失敗続きなんです。でも機械打ちでは分かっていないことだらけなんです。手打ちならもうちょっと細かいところまで意識がいくんじゃないかなって。手打ちを経験してみると、機械で打つ方にも考えが変わってくる。触ることで小麦を理解するとか、何となく考えが変わっていくんです。やれないというのが嫌なんです。成功するまでとにかく自分でするんです。自家製麺も醤油のタレを作る過程と似ていて楽しいですよね。小麦の種類、熟成加減、切り刃の問題とか。」


- 地元・掛川市から発信することを意識していますか?

「良いモノを作って食べてもらうことが大事。お客さんが評価してくれて、遠い所からもわざわざ掛川市へ来てくれるようになる。ここまで来て良かったな、もう一回来よう!となるようにちゃんと良いモノを作らないといけないと思っています。」

 

- 佐々木店主が大事にしていることは?

「確実なものを提供していかないといけない。変わったモノだからいいってわけでなくて、安全で美味しいが大事。遊び心は必要ですけど、遊びではない。安全とか考えないといけないし、よりいい状態のモノを提供することを一番に考えています。

 そして麺屋さすけを盛り上げてくれている弟子やスタッフには自分が挑戦する姿を見せたい。自分が店に立ち、いろんなことに挑戦して失敗する姿も見せていかないといけないと思っています。」


◆店舗情報

麺屋さすけ

静岡県掛川市中央3-12-2

公式HP:https://sasuke396.official.ec/

twitter:https://twitter.com/sasukejapan396

オープン日:2019年11月16日(現店舗オープン日)

 (取材・文・写真 KRK 令和2年11月22日)