Vol.334:福間ラーメン ろくでなし


 今回取材をするのは福岡県福津市の人気店「福間ラーメンろくでなし 福津本店」。現在の九州豚骨の最注目店として各方面から絶賛されているお店だ。少し前に中村店主と知り合っていたので、今回九州に行く機会があったので開店前に時間を作って頂いた。「福間ラーメンろくでなし」中村店主にKRK直撃インタビュー!


- ご出身は?

「福岡県福津市です。ここが地元です。」

 

- 元々ラーメンは好きだったんですか?

「当時はまだこの地域ではラーメンだけを出している専門店は少なくて食堂の1メニューとしてしかラーメンが無かったんです。僕らが知っているラーメンってうどんとかカツ丼や親子丼があって、その中でラーメンがあるという感じでした。だからどこどこのラーメンが美味しいとかいう話にもならなかったですし、あまり食べることもなかったです。」

 

- 他の地域では専門店もあったんですか?

「僕らが学生の頃に一風堂とか一蘭とか『ラーメンしか無いお店があるよ』と話題になっていました。」


- この業界に入ったきっかけは?

「高校卒業して東京の大学へ入りました。僕らの年代って漠然と東京に憧れがあったんです。そしてある日、福岡の友達が東京へ来ることになったんです。理由を聞くとデビさん(デビット伊東)がラーメン屋をやるということでした。詳しく聞いてみたらデビさんが修行に来ていた一風堂大名店でその友達も同時期にアルバイトをしていて知り合って、『今度東京で店をやるからお前も東京に行こうぜ』と誘われたそうなんです。それで友達が僕に『こういう話なんだけどお前もどう?』って誘われたんです。オープニングスタッフでした。現在、山口県で『ぶっとび亭』をしている廣田店主も一緒でした。」

 

- 急展開に迷いましたか?

「東京っぽいなと思いました。芸能人と働けるし嬉しかったです。それが2000年頃でした。」

 

- 人気番組の企画から生まれたお店だから忙しかったでしょう?

「めっちゃ忙しかったですね。オープン日にデビラーメン対タカチャーシュー丼の対決をして、とんねるずのタカさんがチャーシュー丼を作ったりしたので凄い盛り上がりましたね。」

 

- そのお店では長くいたんですか?

「結局13年間いました。国内外の店舗展開や新店の立ち上げ、経営のことも少しさせてもらっていました。」

 

- 当時から独立志望はあったんですか?

「途中から徐々に出てきましたね。自分でやりたいな、自分でやった方がお金持ちになれるなと思いました(笑)。」


2014年1月オープン


- 場所は色々候補はあったんですか?

「当初は東京でしようと思っていました。カウンター10席くらいで行列ができるような意識高い系のかっこいい店をやりたいと思っていたんです。でも幼馴染で立ち上げの時にお金を貸してくれる人が現れたんですよ。彼が福岡で、どうせなら地元で俺と一緒にやらないかとなったんです。それでたまたまここの物件が空いていたので決めました。」

 

- 屋号「福間ラーメン ろくでなし」の由来は?

「今は福津市ですけど昔は福間町だったんです。屋号を『何とかラーメン何とかにしよう』と思っていたので、『福間町だし福間でよくない?』というノリで決めました。"ろくでなし"はブルーハーツが好きだったので、ラーメン屋の屋号っぽいタイトルはないかなと探したら"ろくでなし"という曲があったので、"福間ラーメンろくでなし"で決めました。」

 

- 自店のメイン商品に豚骨を選んだ理由は?

「とにかく売れたかったので、この地域で売れるラーメンはどんなのだろうとずっと見たり聞いたり、自分で食べに行ったりしていました。自分の中で計算もして、これだったら絶対に来るだろうなと思ったのがこのラーメンでした。」

 

- それが熟成豚骨だったんですね。

「福岡で売れるには中毒性とかが凄い大事だと思いました。『中毒性って何なんだろう?』と掘りまくって臭いはマストだなと思いました。当時の僕の取り切りの技術では福岡では戦えないと思ったんです。差別化のためには臭い豚骨が必要でした。」

 

- 最近は非豚骨系というのも台頭してきていますが、当時は豚骨一本だったんですね。

「10年前なので豚骨以外のもの、中華そばとかが売れるイメージが全く無かったんです。なぜか味噌ラーメンと辛い系のラーメンはけっこうみんな好き。塩とか醤油とかを売って食べていけるイメージが全く無かったです。」

 

- 何故、福岡でそこまで豚骨が強いんでしょうか?

「たぶん豚骨が脳みそに入っていると思います。子供の時に初めて食べた味が脳に入っているんじゃないかなと思います。あの香りでお腹が空くとか。」

 

- 豚骨の取り方は自己流で?

「デビさんの店のスープが豚骨と鶏ガラと野菜のスープをそれぞれ取って合わせる作り方だったんです。その豚骨とかの取り方は使う部位は少し違いますがデビさんが修行していた一風堂さんの取り方だったんです。その時に僕も豚骨の取り方を教わっていました。」



- 2014年のオープニングメニューから熟成豚骨を出していたんですか?

「熟成をずっとやりたかったんですが、作り方が分からなくて全然間に合わなかったんです。それで間をとるわけじゃないけど濃度高めの取り切り1本でオープンしました。」

 

- 熟成をメニューに加えたのはいつ頃から?

「オープンから半年ほど経った頃に臭いのが出来たんです。なぜできたのか当時は分からなかったんですよね。でもなぜ難しいかはわかりました。出そうとして出るものではなく、美味いものを効率よく、当時の設備(匂いのあるお店は比較的老舗が多い気がする)でやった結果、副産物として出るものなんです。」

 

- それ以降、熟成は安定したんですか?

「臭みが出るまでがめちゃめちゃ大変だったんですが、出た後の繋ぎ方や安定させるのは意外と簡単でした。ブレたりはするんですけどね。」


- オープンして順調でしたか?

「ありがたいことに最初からお客様に来ていただいてて、売上に関しては順調でした。」

 

- 店舗展開は当時から考えていたんですか?

「はい。1年に1店舗出すという目標を掲げていましたけど、店舗展開って本当に難しいですね(笑)」

 

- 熟成豚骨での店舗展開は大変だと思いますが、各店ごとの味への評価も高いですね。

「僕からしたら店舗ごとに特徴があって全然違うなって思うんですけど、お客様がうちに求める熟成感というのはクリアーしていると思います。」

 

- 熟練した職人が必要と思われるこの製法の豚骨ラーメンでの店舗展開は画期的なことですよね。

「このラーメンだからできないってことはないんです。僕がいなくてもこのラーメンを出せるようになるためには、どういうレシピでどういう仕組みを作ったらいいかというのに命をかけて取り組みました。ずっと見ていると色々ポイントがあるんですよ。ここで崩れるんだとか、ここで臭いが無くなりそうだな、熟成が浅くなりそうだなとかのポイントを全部メモしていくんです。」

 

- それが秘伝ですよね。それを教えることによって秘伝を覚えた人材の流出への危機感とかは無かったんですか?

「それが出ていく人がいないんです。たぶんね、こんなに1人でやらないといけないんだと思うんじゃないですかね。面倒なことばかりですから(笑)」



- 中村店主が目指すラーメンの理想は?

「もう一回あれを食べたいな、飲んでベロベロになった時に吸い込まれてしまうとか、無意識で気がついたらろくでなしでラーメンを食べていたというのが最高です。なんか食べちゃった、また食べちゃったよとか、そういうラーメンでありたいと思っています。」

 

- 居酒屋メニューも出しているのは?

「ラーメンって平日のディナーが弱いんですよね。平日夜の外食でスシローとかに勝つためには居酒屋メニューも必要だと思いました。この場所で前にあった店が居酒屋だったんです。僕らも通っていたんです。昼間はビジネスマンとか現場の人とか来てて僕ら学生もちょろちょろしてて、夜はおっちゃん達が酔って食べている。そのイメージが記憶に残っていたから、それをそのままやろうと思いました。」

 

- 今後も豚骨一本で?

「もし他をやるなら中華そば業態をしたいと思っています。荻窪辺りの丸長や成増のべんてんのような中華そば。デビさんの店に入って小樽運河食堂を経験できたのが僕の人生で考えると凄く大きかったですね。同じ場所にがんこ、東池袋大勝軒、くじら軒、すみれ、一風堂。後からちばき屋、ちゃぶ屋と、今考えると錚々たる名店の方達の雰囲気を二十代前半で味わえたのが大きかったかもしれません。多くのことを学べました。」

 

- 中華そば業態も福岡で?

「福岡には綺麗な水鶏系とか出てきているんですけど、東京の昔ながら系が無いんですよ。限定とかで出したら評判良くて手応えは掴んでいます。中華そばでは技術は必要なんですけど体力的に女性にも働く機会を増やせるお店になるんじゃないかなと思っています。」

 

- 何か今回の取材用のマル秘ネタとか無いですか?(笑)

「この本店の壁は大阪の"ぬんぽこ"へ食べに行った時に気に入ったので、似たようなのに作り直したものなんですよ。ぬんぽこの雰囲気が凄く良くて、僕が中華そばの業態をする時に参考にしたいと思っています。」

 

- 中村店主が一番大事にしていることは?

「美味しいものを出すことです。とにかく美味いものを出す。それが一番です。」


◆店舗情報

福間ラーメンろくでなし 福津本店

福岡県福津市中央4-22-30

公式HP https://rokudenashiramen.com/

instagram https://www.instagram.com/rokudenashi_fr/

オープン日:2014年1月

 (取材・文・写真 KRK 令和7年2月1日)